人は変われる「大人のこころ」のターニングポイント
わたしは、「うつ」になったことをきっかけに「生き方を変える」という作業をすすめています。
そんな中、とても参考になる本を見つけましたので、紹介させていただきたいと思います。
人は変われる「大人のこころ」のターニングポイント 高橋和巳 筑摩書房
高橋先生は精神科医であり、都立松沢病院の精神科医長を退職後、都内でクリニックを開業し、診療を続けてみえます。
わたしも長年心の病をお持ちの方の相談にのってきましたが、高橋先生の本に書かれていることは合点がいくことばかりです。さらに、薬物療法のみのアプローチではなく、カウンセリングなどに力を入れてみえる点はとても共感いたします。
今回の記事は、この本のプロローグからのまとめになります。
ストレスと解釈
わたしたちは、ストレスは自分の外からやってくると考えています。ですので、ストレスの少ない生活を送るには環境を良好に保たないといけないと考えます。
しかし、ストレスは外側からやってくるだけではなく、わたしたちの内側の条件によっても変化するのです。
ダニエル・フリードマンも、ストレスとはわたしたちの周りに起こる出来事そのものではなく、出来事をわたしたちがどう解釈するかで決まる、と述べています。
わたしたちは日々起こる出来事を、さまざまに解釈していますが、その解釈は一人ひとり微妙に異なっています。
同じ出来事でも、それに対する解釈は人によって異なっており、その結果、同じ出来事が、ある人には大きなストレスになったり、またある人には逆に喜びになったりするのです。
人生の解釈
わたしたちの毎日の生活は、絶え間ない出来事の連続と、それらに対するわたしたちの解釈の積み重ねです。
いま、目の前に宝くじの当選権があったとします。当選番号を知っている人はそれをもって銀行に出かけ、たくさんの富を得ることができます。しかし、番号を知らない人にとっては、単なる一枚の紙にすぎません。
それと同じことが、わたしたちの人生についても言えないでしょうか。
つまり、今まで知らなかったことを知り、それを用いて人生を新しく解釈する、その結果、同じ人生を豊かに送れるようになる。一方、知らないまま古い解釈を使い続けていれば人生は変わらない。
もし、新しい目で、自分や社会や人生を見直すことができ、その結果、人生が豊かになったのであれば、その人は、大きな精神的発達を遂げたことになります。
今までの発達心理学
エリック・エリクソンは「自我同一性」を実現していく過程として発達段階を八段階に分け、
ジャン・ピアジェは「概念を操作」するという思考の側面に注目して五段階に分けました。
これまでの発達心理学は、いかにして人は大人になっていくか、という問題に対して興味が注がれていたが、アブラハム・マスローは、人生後半の成熟した人間を研究の中心に据えまた。
マスローが興味を持ったのは「自己実現」を果たした人々であり、つまり、自分の持っている才能や潜在力を十分に開発し、利用し、その結果、人生を明るく生きている人です。
そして、これらの少数の人々はなにも特別な人ではなく、むしろまったく平凡な人間であり、他の大人と違うところは、平凡な人間の能力や力をくじかれたり抑圧されていないだけなのです。
精神的発達と「大人の解釈」
「解釈」という言葉をキーワードに用いて、人の精神的な発達を説明すると、
精神的発達とは、生まれてから成人なるまでの間に段階を追って獲得する「各発達段階に特徴的な世界と自分についての解釈」となります。
発達段階を乳児期、幼児期、学童期、思春期、そして成人期の五段階に分けるとすると、各段階にはその段階に特徴的な世界と自分についての解釈があります。新しい解釈を獲得したときに、わたしたちは精神的に成長し、その結果、各発達段階を経て成人となります。
そして30歳ぐらいで完成し、自分や世界に対する安定した解釈を持つようになります。
この出来上がった解釈をここでは、成人のわたしたちが共通に持つ自分と世界についての
解釈=「大人の解釈」とします。
自分とは、世界とは
わたしたちは自分と世界について「客観的な理解」を基礎にして生きています。
わたしたちの周りには机や家、マーケットなどの物質的な存在と、人間関係があります。
世界はこの二つによって構成され、この二つはわたしの気分の変動や考え方の変化によって影響を受けることはない、わたしとは独立して存在しているという意味で「客観的な存在」です。
このように物質的な存在と人間関係という二種類の客観的存在によってこの世界が構成されているというのが、「大人の解釈」の世界です。
また自分とは、その二つの客観的な存在の中に生き、その二つの客観的な存在によって支えられている一人の人間です。
わたしたち大人は、この共通の土台に立って、自分や世界を解釈しています。その結果、自分や世界に対して似たような価値観を持つようになります。この価値観が大人の価値観です。
成人後の「新しい解釈」について
「大人の解釈」を土台にして生きている大人のわたしたちは、共通の価値観を持っているのである出来事に対してまったく違った解釈をするのは稀で、多くの場合よく似通った解釈をします。
しかし、出来事とそれを受け取る人の反応をもっと細かく観察すると、事実は微妙に異なります。
この微妙な解釈の違いがもう少し大きくなり、その結果、普通の人とは大きく異なる反応を示す人がいるのではないでしょうか。
さらに、個々の出来事だけではなく、人生に対してまったく異なる解釈をもって生きている人がいるのではないでしょうか。
成人後人は変われるか
わたしたちは時として、一般の人とは異なる態度をもって人生に接している人と出会うことがあります。
その人たちは、人生に対する狭い解釈にとらわれないで、ずっと自由に生きているような気がします。
たとえ少数であってもそういう人が実際にいれば、大人であるわたしたちも自分を変え、さらに精神的な発達を実現する可能性が残されています。
大人の解釈を身につけ、人間関係も、社会の出来事も、自分のこころの出来事も、解釈の枠内ですべて了解できるようになっても、人の発達はそこで終わりません。
人生の後半、それは死に至る人生でもあります。
自分のこころの動きも、世界の出来事も十分に解釈できるようになったとき、人はこれまで努力してきた自分のすべての営みは何のためだったのかと、人生を振り返ります。
それまで磨いてきた古い解釈では、もはやこれに対する答えは得られないのです。
新しい解釈が必要となるのです。
プロローグだけ見ても、とても示唆深く興味をそそられますよね。
わたしにはとても意義深い一冊となりました。
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